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東京地方裁判所 平成10年(ワ)1177号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、平成九年六月一六日付××第三五三号について、販売、無償配付及び第三者への引渡しの各行為をしてはならない。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、朝日新聞東京本社版、読売新聞東京本社版及び毎日新聞東京本社版に、それぞれ別紙(一)記載の謝罪広告を別紙(二)記載の条件で一回掲載せよ。

三  主文第二項と同旨

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  第一項につき仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、葛飾区議会議員である原告が、被告発行の平成九年六月一六日付「××」に、△△・北総開発鉄道の敷設にあたり、原告が△△側から賄賂を受け取り、土地を購入したとの記事が掲載され、さらに、同年一〇月二四日、「○○」と題する紙上に、葛飾区議会を挙げて△△側から巨額の金を受け取った旨の記事が掲載され、被告が右「××」と共にこれを頒布したため、名誉が毀損されたとして、不法行為に基づき、一三〇〇万円の損害賠償及びこれに対する最初の不法行為の時である平成九年六月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、謝罪広告の掲載並びに人格権の侵害に基づき販売等の差止を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、昭和五〇年から現在までに葛飾区議会議員を七期勤め、平成五年六月及び平成九年六月に東京都議会議員選挙に立候補したことがある者である(甲第三一号証)。

2  被告は、肩書住所地に××社と称する事務所を持ち、不定期発行の新聞「××」を編集し発行する者である(争いがない。)。

3  原告は、平成九年六月一六日当時、葛飾区議会議員であり、同月二七日に告示される東京都議会議員選挙に立候補を予定していた(原告本人)。

4  被告は、平成九年六月一六日発行の「××」第三五三号(以下「本件××」という。)に、「立体化と地下化工事問題で」「△△・北総開発鉄道『構造的金疑惑』が浮上」「70億円に群がった葛飾区政界の黒い人々」の大見出しで、「葛飾区政・△△北総疑惑相関図」「注 高架反対住民連絡協が製図」の見出し付きで、「青砥駅改築協力・公園違法占有の黙認行為の代償として△△青砥駅付近連続高架化工事資金(93%公費)からキック・バック方式により捻出した金(6×億円)を議員一人当たり一億円ずつ区議会各会派に渡されたとの証言あり」との記事を、「区議会の背信に不信感募る住民たち」「違法に手貸した区議会」の見出し付きで、「葛飾区は後に鎌倉第一・第二公園の廃止と交換を提案し、区議会はこれを認め、事実上違法な高架鉄道敷設に手を貸した、議員にその成否を握られていた、正に“沈黙は金”金は脅し放題だった、幾ら取ったのか?」との記事を、「住民側追跡」「△△の賄賂金?使途自宅新築など目立つ」の見出し付きで、「△△側からのワイロとみられる億単位の金は、どのような使途ぶりかを告発人側が追跡調査した。」「土地購入などの堅実な消費が目立った。」「当時の区政界構成と各党別の議員名を調べてみた。名前の下○数字は当選回数。」「×は土地購入」「[無所属1名]×乙川次郎③」との記事をそれぞれ掲載し(以下、これらの記事を「本件記事」という。)、新聞の折り込み広告の方法で、葛飾区のほぼ全世帯に頒布した(以下「本件第一行為」という。)(甲第一号証、被告本人)。

5  原告は、平成九年一〇月二四日当時、同年一一月二日に告示される葛飾区議会議員選挙への立候補を予定していた(甲第三一号証)。

6  平成九年一〇月二四日、「通勤特急は、何故『△△立石』駅に停車しないか?区議等が△△に弱点を握られている為。」「こんな葛飾区議会では地域の発展はない。こんな葛飾区議会は区民の不幸である」との見出し付きで、「△△に強いことが言えない!且て区議会挙げて△△・北総をユスリ・オドシして、巨額の金をせしめた」「オドシの手口 北総高架工事①鉄道敷設予定敷地は『土地区画整備事業』で造成された『鎌倉第一・第二公園』〈土地は区民の無償提供〉の為『公園廃止』『用地交換』議案に区議会の同意を要す」「共通点⑤キー・ワードは【金】である。」との記事が掲載された「○○」号外一九九七年一〇月五日号と、本件××の「青砥駅改築協力・公園違法占有の黙認行為の代償として△△青砥駅付近連続高架化工事資金(九三%公費)からキック・バック方式により捻出した金(6×億円)を議員一人当たり一億円ずつ区議会各会派に渡されたとの証言あり」及び「[無所属1名]×乙川次郎③」との記事部分等を赤色で塗り、欄外に「一億五仟万円以上、牛久沼の強大な土地」と手書きしたものが、同一の封筒に入れられて、葛飾区立石〈番地略〉付近の世帯に頒布された(以下「本件第二行為」という。)(甲第二号証の一ないし三(存在のみ)、原告本人)。

二  争点

1  本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか否か。

(原告の主張)

本件記事は、△△・北総開発鉄道の敷設にあたり、原告が、△△側から賄賂を受け取り、土地を購入したという事実が一般の読者から読みとれる内容である。

(被告の主張)

本件記事は、原告が主張するような賄賂によって土地を購入した事実を記事にしたものではなく、公務員についての一般的な疑惑がある状態を明らかにしたものにすぎず、原告の名誉を毀損するものではない。

2  本件第一行為について、真実性の証明あるいは真実と信じたことについて相当の理由があったか。

(被告の主張)

原告は、葛飾区議会議員という公職者であって、本件記事は、区議会議員の権限行使としての請願の採択という公務に関する行為についての報道であり、北総高架施設及び△△青砥駅付近連続交差化事業による△△青砥駅の高層化改築に伴う駅出入口の移動問題(以下「青砥駅舎改築問題」という。)で、△△青砥駅付近連続交差化工事の捻出資金により原告が多額の金銭を受け、土地の購入をしたことを報じた本件記事は真実である。そのことは、次の事実から証明されており、仮に、真実であることが証明できなかったとしても、本件記事の内容が真実であると被告が信ずることに相当の理由があるから、免責されるべきである。

(一) 原告は、地元住民の意向を受けて、青砥駅舎改築問題の反対運動を主導し、昭和五九年一二月七日に葛飾区議会が採択した「△△青砥駅舎の北口乗降階段及び改札口新設に関する請願」(以下「第一請願」という。)について企画、案文の起草、区議会への紹介を行った。

その後、原告は、右請願を実質否定する「△△青砥駅前広場の増設に関する請願」(以下「第二請願」という。)の紹介議員として、同請願を葛飾区議会に上程し、昭和六〇年九月二五日の本会議で採択させた。その結果、駅出入口は移動し、乗客の流れは変わり、青砥駅北口中通り商店会は大きな打撃を受けた。

(二) 原告は、昭和六〇年三月二五日、葛飾区立石〈番地略〉所在の宅地(以下「本件土地」という。)につき、共有持分権を取得した。

(三) 昭和六〇年当時、葛飾区議会議員であったA(以下「A」という。)が、昭和六〇年三月二七日、葛飾区柴又〈番地略〉に宅地(以下「本件A土地」という。)を購入し、同年一二月四日、同宅地上に住宅(以下「本件A建物」という。)を建設した。

(四) 日本社会党葛飾総支部の職員二人が、昭和六一年秋、B(以下「B」という。)の経営する中華料理店を訪れ、「A区議は汚い。△△から一億円もらって、柴又に土地を買い、家を造った。」と告げた。

(五) Bは、被告人Cに対する東京簡易裁判所昭和六一年(ろ)第三一九号傷害被告事件の昭和六一年一一月一〇日午前一一時の公判において、原告から、現場にBがいなかったのに、暴行傷害を目撃したことを証言するように指示され、右指示に反すれば、青砥駅舎改築問題から手を引くと言われたため、偽証をした。

(六) Aと、元葛飾区鎌倉町土地区画整理組合長であるD(以下「D」という)、B、E(以下「E」という。)とが、平成八年三月一〇日午前一〇時ころ、D宅で同席した際、Aが、青砥駅舎改築問題等について追及する右三名に対し、「貰ったのは俺だけではない。みんな貰ったんだ。自民、公明はもっと貰った。」旨を告白した。

(七) 葛飾区役所で厚生部長や環境部長をしたこともあるF(以下「F」という。)とBが、平成八年五月九日、浅草で、△△電鉄の現職幹部に、本件記事中の葛飾区政・△△北総疑惑相関図を示したところ、この相関図を大体正しいと認めた上、全議員に金を渡したことを認め、この件で流れた金は、一〇〇億円以上になると述べた。

(八) 原告は、F、B、D、Eが調査し、確認した右事実に基づき、本件記事を掲載した。

(原告の主張)

本件記事の内容が真実であること及び本件記事の内容が真実であると被告が信ずることに相当の理由があることの証明はなされていない。これは、次の事実から明らかである。

(一) 原告は、地元選出の議員として、北口通り商店会や青砥公団住宅自治会などの地元住民の意向を受けて、第一請願及び第二請願の紹介議員となったが、住民の真意に反した行動に出たことはない。△△青砥駅改築工事は、青砥駅周辺の整備のために予定された計画通りに実施され、突然に計画変更がなされたものではない。

なお、原告は第一の請願についても紹介議員に過ぎないし、青砥駅北口中通り商店会は、元々表通りに面してはおらず、同商店会が、駅出入口の移動によって大きな打撃を受けた事実はない。

(二) 原告は、本件土地の共有持分権の登記名義人となったが、本件土地は原告が取得したものではない。本件土地は、立石仲町会が、倉庫敷地として、東京都から譲渡されたものであるが、町会名義の所有権移転登記ができないために、立石仲町会長である原告及び副会長二名の三名が町会の代表者として登記名義人になったにすぎない。

(三) Aは、同人の父G(以下「G」という。)の実質的な遺産となっていた千葉県東葛飾郡沼南町高柳字西向原の土地の一部を売却し、Aの持分に相当する額として取得した金員をもって、本件A土地を購入し、本件A建物を建築した。しかし、土地購入及び建物建築の費用が不足したために、住宅金融公庫と年金福祉信用保証株式会社から不足分を借り入れて、本件A土地及び本件A建物に抵当権が設定されたものである。

したがって、Aが、△△側からの賄賂によって本件A土地及び本件A建物を取得した事実はない。

(四) AとD、B、Eが、平成八年三月一〇日、D宅で同席した際には、Aが「何の証拠を持ってAが△△電鉄側から賄賂を受け取っているかのような文書を出すのか」との旨の糾弾をし、口論になったに過ぎず、被告主張のAが賄賂の収受を認めたという事実はない。

(五) 被告は、本件記事を掲載するにあたり、原告に土地購入の事実を確認をせず、Aに直接面談して本件A土地及び同建物の取得経過を確認することもせず、△△電鉄株式会社に賄賂金送付の事実の存否を確認することもしなかった。

3  本件第二行為は、被告が行ったものか。

(原告の主張)

本件第二行為は、被告が、Bをして行わせたものである。

(被告の主張)

本件第二行為には、被告もBも関与していない。

4  損害、謝罪広告及び販売差止の必要性等。

(原告の主張)

(一) 本件第一行為は、東京都議会議員選挙の公示直前になされたものであり、有権者から抗議の電話があり、原告からの投票のお願いに対して、本件記事を理由に投票を断る者などがいた。原告は、選挙期間中においても、誤解を解くための弁明に時間を割かれるなど、選挙運動を著しく妨げられ、右選挙において、当選することができなかった。

本件第二行為は、葛飾区議会議員選挙の公示直前に、原告の有力な支持者の家を対象として、後援会潰しを図る選挙妨害的な意図でなされたものである。

原告は、本件各行為により、人格的評価を著しく低下させられ、精神的苦痛を受けたものであり、この苦痛を金銭に換算すれば一〇〇〇万円が相当である。また、原告は、本件名誉毀損を回復するために、本件原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起追行を依頼し、弁護士費用として三〇〇万円を支払う旨を約したから、これも損害である。

(二) 本件××には、残部が存在し、本件××を複写して配布することも可能であるから、販売、無償配布、第三者への引渡しの各行為の差止を求めることが、名誉毀損行為の防止のために必要である。

(三) 被告は、本件訴訟中であるにもかかわらず、「××」第三五四号及び第三五五号において、本件記事の続報記事を掲載し、本件第一行為と同種の行為を繰り返しているから、これを防止するためには、謝罪広告が必要である。

(被告の主張)

(一) 本件記事と、原告が東京都議会議員選挙において落選したこととの因果関係はない。

(二) 本件××は、残部の保存用のものしかなく、被告は、これをさらに広く販売することは考えておらず、販売等の差止は、認めるべきでない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件記事が原告の名誉を毀損するものであるか否か。)について

1  報道された記事の意味内容が、当該個人の社会的評価を低下させるかどうかは、たとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。

2  そこで、これを本件記事の内容について検討すると、甲第一号証によれば、本件記事には、(一)「住民側の公開質問攻めで元都議『一億円貰った』と認める」「時効は成立、だが政治責任を追及」との見出し付きで、「その結果、△△側から約七十億円の金が議会工作費に流れている事実が判明(住民派関係者の館川徳一さん=仮名)。館川さんらが元都議を追及したところ、『一億貰らい、土地を購入して自宅を新築した』ことを認め、『他党はもっと悪い』という。△△からの金がほぼ全会派に渡っていると発言した。この時点で、金やりとりの贈賄罪はすでに時効が成立している」、(二)「追跡資料では、△△側が金をバラまいたのか“たかられた”のかは不明だが、総額七十億円が工事協力金名目で支払われた模様だ。この件に関する資料を関係者から入手している国税庁は、『工事協力金は少なくても百億円は出回っている』(館川さん)という。さらに、国税庁はこの問題に関連するすべての人たちの土地購入や自宅新築した者について、その資金の出どころを調査中とも言う、『大いに実情を知りたい』(同)とやる気でいる。平成8年3月10日、元都議(当時、区議)は、館川さんら数人の前で一億円の収受を認めた。元都議が所属する葛飾支部職員も『先生は一億で柴又に土地を買って家を新築した』と周辺に漏している。」、(三)「古参の都議が疑惑の時期に豪邸新築」「銀行に九百万円の残高も」との見出し付きで、「△△からの多額の工作資金が流れていると噂が出ているさ中、葛飾区選出の古参都議が区内に白亜の豪邸を新築した。追跡調査団によると、敷地四八二平方メートル(約一四六坪)、鉄骨三階建て二七九平方メートル(約八五坪)で、土地、建物の取得費は二億数千万円と推定。この都議の銀行口座には約九百万円の預金があり、都議の収入ではまかなえない金額だという。」との記載があり、さらに争いのない事実等で挙げたとおり、「住民側追跡」「△△の賄賂金?使途自宅新築など目立つ」の見出し付きで、「△△側からワイロとみられる億単位の金は、どのような使途ぶりかを告発人側が追跡調査した。」「土地購入などの堅実な消費が目立った。」「当時の区政界構成と各党別の議員名を調べてみた。名前の下○数字は当選回数。」「×は土地購入」「[無所属1名]×乙川次郎③」との記載が存在し、これらの記載を一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、単なる一般的な疑惑の程度を越え、原告が、一億円の収受を認めた元都議と同様に、△△側から賄賂として一億円以上の金を受け取って土地を購入したのではないかとの印象を与えるものといわざるを得ない。

3  よって、本件記事は、原告の社会的評価を低下させるものとして、原告の名誉を毀損するものであると認められる。

二  争点2(本件第一行為について、真実性の証明あるいは真実と信じたことについて相当の理由があったか。)について

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三(存在のみ)、第一一号証、第一四ないし一七号証、第一八号証の一ないし七、第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証、第二三号証の一、二、第二七号証、第三二号証、乙第一四号証、第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七号証の一ないし三、第二〇号証、第二一号証の一ないし四、第二二号証、第二五号証、第五一号証、第五九号証、証人B、原告及び被告各本人によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、第一請願及び第二請願について、他の葛飾区議会議員と共に、紹介議員になった。

第一請願の内容は、青戸北口通り商店会会長満留登が請願者として、△△青砥駅が高架化したことに伴い、改札口が南側だけになった上、乗降階段が東西に配置されたため、北口商店街の人通りが減ったので、新駅舎に北口乗降階段及び改札口を設置することを求めるものであり、昭和五九年一二月七日、葛飾区議会において採択された。

第二請願の内容は、青戸公団住宅自治会会長渡辺攻が請願者として、△△青砥駅が高架化したことに伴い、高架下にできた新地に、駅前広場を増設し、さらに、安全対策としての広くて利用しやすい北口乗降階段を設置することを求めるものであり、昭和六〇年九月二五日、葛飾区議会において採択された。

(二) 昭和五九年七月以前に、△△青砥駅が二階にある橋上駅であったときには、駅北側出入口は、跨道橋で対面の△△青砥ビルの二階に繋がっており、駅北側の居住者は、その階段から出入りしていたので、近道のために、裏通りで狭い青砥駅北口の中通り商店街を利用する者がいたが、青砥駅高架化工事に伴い、出入口が変更されたため、同商店街を利用する者は減少した。

△△電鉄株式会社は、昭和六〇年一月ころ、同商店街からの陳情を受け、当初の二本の自由通路に加え、中通りに近い駅中間部に自由通路を設けることにし、これに基づいて青砥駅高架化工事を進行し、現在の駅舎が完成した。

(三) 立石仲町会は、昭和六〇年三月二五日、倉庫用地として、会員の寄付金によって、東京都から本件土地の払い下げを受けた。しかし、法人格のない団体である立石仲町会名義の所有権移転登記ができないために、立石仲町会長である原告及び副会長である古田英雄、秋田快定の三名が、町会の代表者として、持分三分の一ずつの共有登記名義人になった。

(四) Aの父であるGは、昭和三七年一〇月二二日に死亡し、一旦は同人の長男であるHと妻IがGの不動産の相続を行い、後に、Gの子供達が成人してから実質的な遺産分割を行うことになっていたところ、Aの兄H名義になっていた土地が収用され、その代替地として購入された千葉県東葛飾郡沼南町高柳字西向原〈番地略〉と同所〈番地略〉の土地が、実質的な遺産となっていた。そして、Aは、昭和六〇年三月一六日、右土地の一部を豊栄住宅株式会社に代金四四二二万五〇〇〇円で売却した。Aは、昭和六〇年三月二六日、本件A土地を購入し、昭和六一年一月七日、本件A建物の所有権保存登記手続を行った。そして、本件A土地及び本件A建物には、年金福祉信用保証株式会社を抵当権者とし、昭和六〇年一一月二六日保証委託契約による求償債権の昭和六一年一月二八日設定を原因とし、債権額を五七〇万円として、昭和六一年一月二八日、共同抵当権設定登記がされ、本件A建物には、住宅金融公庫を抵当権者とし、昭和六一年一月一七日金銭消費貸借同日設定を原因とし、債権額を八九〇万円として、昭和六一年一月二八日、抵当権設定登記がされた。

(五) 被告は、本件記事に関し、次のような取材活動をして、本件記事を掲載した本件××を発行した。

(1) 被告は、Fや△△・北総疑惑糾弾委員会を設けていたD、B、Eから、本件記事の内容のような話を聞いた。

(2) 被告は、本件××の発行前に、Aには一切接触をせず、発行後にAに電話して意見を求めたところ、無言で電話を切られた。

(3) 被告は、F、B、Eらから、社会党の職員であったJが、Aが△△側から一億円を貰ったと述べていたという話を聞いたが、右Jが信用できる人か確かめることはせず、直接同人に取材もしなかった。

(4) 被告は、Fから、△△電鉄の地位のある人が、△△側から七〇億ではなく億単位の三桁の金が動いた旨を述べていたという話を聞いたが、その人物の名前すら確認することはしなかった。

(5) 被告は、Aの本件A土地及び同建物については、平成七年一二月四日にFが入手した登記簿謄本を、Fから話を聞いたときにもらった。

(6) 被告は、Gの実質的な遺産であったH名義の土地については調査をしなかった。

(7) 被告は、原告の本件土地の登記簿謄本を見て、原告が本件土地の共有名義人になっていることを知ったが、本件××発行前に、原告に土地購入について問い合わせることはせず、本件土地の使用形態を調査することもしなかった。

(六) 本件第一行為においては、本件記事の記載された「××」第三五三号が、新聞の広告折り込みの方法のみで、葛飾区内全域に約一四万八五〇〇部配布された。

(七) 本件第一行為後、東京都議会議員選挙の告示日である平成九年六月二七日までに、原告は有権者から、本件記事に関連して十数件の抗議の電話を受け、また、東京都議会議員選挙告示後の原告からの投票のお願いに対して、本件記事に関連して十数件の苦情を受けた。

(八) 平成九年七月六日に東京都議会議員選挙において、原告は最下位当選者と三六七五票差の一〇八七九票しか得票できず、落選した。

(九) 本件第二行為においては、前記「○○」号外一九九七年一〇月五日号及び「××」第三五三号が、原告の選挙基盤である立石〈番地略〉及び立石仲町会の原告の支持者の家など数十軒に配布された。

(一〇) 原告は、平成九年一一月二日告示の葛飾区議会議員選挙に立候補し、最高得票で当選した。

(一一) 被告は、平成一〇年一一月二五日発行の「××」第三五四号において「△△・北総疑惑」と題する本件記事の続報を掲載し、平成一一年五月二五日発行の同第三五五号において、同様の続報記事を掲載した。

2  Bは、AとD、B及びEとが、平成八年三月一〇日午前一〇時ころ、D宅で同席した際、Aが、右三名に対し、「貰ったのは俺だけではなく、全員が貰った。自民、公明はもっと貰った。」旨を告白した旨を証言し、同趣旨のDの陳述書(乙第二九号証)が存在し、また、社会党の仕事を手伝っていたJから、昭和六〇年一〇月ころ、Aに一億円入ったとの話を聞いた旨を証言している。

しかし、前記認定のとおり、Aは、本件A土地及び同建物の購入前である昭和六〇年三月一六日に遺産の一部を売却し、土地代金として四四二二万五〇〇〇円を取得していること、本件A土地及び同建物については、合計一四六〇万円の抵当権が設定されていることからすれば、本件A土地及び建物は、主としてこれらの金員によって購入したものであることが認められ、また、A自身が本件訴訟において右一億円の受領を否定する陳述書(甲第二〇号証の一、二)を提出していることに照らせば、前記Bの証言等はにわかに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  また、Bは、平成八年五月九日午後、FとBが、浅草の喫茶店で、△△電鉄の現職幹部に、本件記事中の葛飾区政・△△北総疑惑相関図を示したところ、この相関図を大体正しいと認め、全議員に金を渡し、この件で流れた金は一〇〇億円以上になることを教えた旨を証言し、同趣旨のFの陳述書(乙第三〇号証)が存在している。

しかし、証人Bは、主尋問では、この△△電鉄の現職幹部を、「テナントの一番上のほうの方」で「重役」であり、普通の人では会ってくれと言ってもなかなか出て来てくれないが、Fが信用がある人物なので、呼び出すことができた旨を述べているにもかかわらず(同人調書一一八ないし一二六項)、反対尋問では、この人物は、現在、△△電鉄株式会社の建築課の課長の下の地位である次長にすぎず、それ以前にも青砥駅北口中通り商店会に三、四回出口の問題等で話に来てくれたと述べるなど(同人調書一九三、一九八項)、その証言内容に不可解な点があり、また、甲第二三号証の一、二によれば、△△電鉄株式会社が、本件原告代理人が平成一〇年一二月一〇日にした弁護士法第二三条の二第一項に基づく照会の申出に対し、平成一一年一月二〇日付回答書において、「『××』に掲載されているような、当社が賄賂を区議会議員に送った事実は一切ない。」旨を回答していることが認められることからすれば、前記Bの証言等はにわかに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  さらに、Bは、東京簡易裁判所昭和六一年(ろ)第三一九号傷害被告事件の昭和六一年一一月一〇日午前一一時の公判で、現場にBがいなかったのに、原告から、暴行傷害を目撃したことを証言するように指示され、右指示に反すれば青砥駅の北口出入口開設運動から手を引くと言われたため、偽証をした旨を証言するが、Bは、目撃者として本田警察署において供述調書が作成され(同人調書二五三項、二五六項)、これと同様のことを法廷で話したことを認めており(同二五七項)、それに加えて、同事件は傷害罪の有罪判決が出て、被告人のCは刑に服しているというのであり(同二五九、二六〇項)、さらには、Bが中通り商店会がさびれたことについて原告に恨みを持っていることを自ら証言していること(同二三三項)にも照らすと、Bが原告の依頼により偽証をしたとの証言を採用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

5  また被告は、原告が第一請願についての企画をし、案文の起草、区議会への紹介を行い、実現させたにもかかわらず、これを実質否定する第二請願の紹介議員として、同請願を採択させた旨主張するが、既に認定したところによれば、第一請願の内容は、青戸北口通り商店会会長満留登が請願者として、△△青砥駅が高架化したことに伴い、改札口が南側だけになった上、乗降階段が東西に配置されたため、北口商店街の人通りが減ったので、新駅舎に北口乗降階段及び改札口を設置することを求めるものであり、第二請願の内容は、青戸公団住宅自治会会長渡辺攻が請願者として、△△青砥駅が高架化したことに伴い、高架下にできた新地に、駅前広場を増設し、さらに、安全対策としての広くて利用しやすい北口乗降階段を設置することを求めるものであるから、必ずしも矛盾するとはいえないものである上、証人Bも、第二請願の駅前広場ができればよいと思っていた旨を証言しており(同人調書七〇項)、さらに、△△電鉄株式会社が、昭和六〇年一月ころ、青戸北口通り商店会の中通り商店街からの陳情を受け、当初の二本の自由通路に加え、中通りに近い駅中間部に自由通路を設けることにし、右駅舎から同商店会付近に通じる駅出入口が設けられているのであるから、第一請願と第二請願が矛盾するものであったとの被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

6  なお、被告は、昭和六一年秋に日本社会党葛飾総支部の職員がBの経営する中華料理店を訪れ、「A区議は汚い。△△から一億円もらって、柴又に土地を買い、家を造った。」と告げた旨主張し、Bの陳述書(乙第二三号証)にはこれに沿う部分があるが、右陳述書の記載を客観的に裏付ける証拠は何ら存在しないから、被告の右の点に関する主張も採用できない。

7  以上に認定、判断したところによれば、本件記事が真実であるとは到底認められないのみならず、被告の取材活動は、原告に土地購入の事実を確認せず、Aにも本件××の発行前に本件A土地及び同建物の取得経過を確認せず、△△電鉄株式会社に賄賂金送付事実の存否を確認することもしないなど、提供された情報の内容の正確性について、情報提供者からの資料以外に、何らかの裏付け調査を行った形跡がなく、むしろ、Fが作成した図面をそのまま紙面に掲載するなど、元葛飾区の部長で区長選挙にも出たことのあるFを信用して、それ以外に独自の調査をせず、無批判にその内容を真実として受け止めていた(被告本人調書七一、七二、一一一項)ということができる。しかも、情報源の一人であるBは、青砥駅北口の中通り商店会がさびれたことについて原告に恨みを持っていた者であるから(証人B調書二三三項)、そのような者からもたらされた情報については、慎重に吟味すべきであるにもかかわらず、なんら独自の取材活動を行った形跡はない。

したがって、被告が本件記事の内容を真実と信じたのは、軽率に過ぎたという批判を免れないのであって、真実と信じたことについての相当の理由も認められないから、この点に関する被告の主張は理由がない。

三  争点3(本件第二行為は、被告が行ったものか。)について

1  甲第一二号証は、本件第二行為において配布された甲第二号証の二と同一の文面の左上に「B(3604)8527」との記載がある文書であることが認められる。

また、原告本人尋問の結果によれば、本件第二行為においては、配布先が原告の選挙基盤である立石〈番地略〉及び立石仲町会の原告の支持者の家などであったこと、配布された本件××は、コピーではなく、発行された新聞の原本であったことが認められる。

2  しかし、右の点だけでは、被告が本件第二行為を行ったと認めるに足りず、他に本件第二行為を被告が行ったと認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

四  争点4(損害、謝罪広告及び販売差止等)について

1  原告は、本件第一行為により、原告が、平成九年七月六日に行われた東京都議会議員選挙において落選した旨主張するが、既に認定したところによると、本件第一行為後、原告が本件第一行為に関して、有権者等から抗議や苦情があったことは認められるものの、原告が右東京都議会議員選挙で得た得票数は、最下位当選者と三六七五票の差があり、平成九年一一月二日に告示された葛飾区議会議員選挙においては原告が最高得票で当選したことが認められるのであり、また、甲第一号証及び乙第一五号証によれば、本件記事中の原告の名前は、右東京都議会議員選挙の当選者を含む五〇名以上列記された者の中の一人として記載されているに過ぎず、取り立てて原告のみを強調する記事ではなかったことが認められるから、本件第一行為と原告が右東京都議会議員選挙において落選したこととの因果関係までは認められない。

2  そして、既に認定したところによれば、本件第一行為の当時、原告は、葛飾区議会議員であり、その一一日後に告示される東京都議会議員選挙に立候補を予定していたこと、本件記事の内容は、区議会議員である原告が△△側から賄賂として一億円以上の金を受け取って土地を購入したのではないかとの印象を与えるものであったこと、本件第一行為においては、本件××が、新聞の広告折り込みの方法で、葛飾区内全域に約一四万八五〇〇部配布されたこと、本件第一行為後、原告は有権者等から本件記事に関連して抗議や苦情を受けていることが認められ、これらの諸般の事情を考慮すると、原告が受けた精神的苦痛に対する賠償額は五〇万円と認めるのが相当であり、弁護士費用については、本件不法行為と相当因果関係があると認められるのは一〇万円が相当である。

3  人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償又は名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差し止めを求めることができるものと解されているところ、被告が本件××を新聞の折り込み広告の方法で約一四万八五〇〇部配布されたこと、本件記事の内容が虚偽であり原告の名誉を毀損するものであること、本件××は、広告を掲載せずに、特定のスポンサーの支援のもとに発行されたものであること(原告本人調書一三六項)、被告は、平成一〇年一一月二五日発行の「××」第三五四号において「△△・北総疑惑」と題する本件記事の続報を掲載し、平成一一年五月二五日発行の同第三五五号において、同様の続報記事を掲載したことによれば、原告に対する名誉の侵害行為は、将来も生じうるおそれがあると認められ、右××が配布されれば原告が重大でかつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認められるから、右の原告の損害の発生を阻止するためには、被告の本件××の販売、無償配布及び第三者への引渡しを差し止める必要があることを認めることができる。

4  原告は、慰謝料の支払及び本件××の販売等の差止めに加えて、大手新聞各東京本社版への謝罪広告の掲載を求めるが、すでに認定した事実によれば、右慰謝料の支払により、原告の精神的苦痛という損害は回復されると認められるから、本件においては、原告が求める謝罪広告の掲載の必要性は乏しいといわなければならず、これを求める原告の請求は理由がない。

第四  結論

以上によれば、原告の請求は、被告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める点及び本件××について、販売、無償配布及び第三者への引渡しの各行為の差止めを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

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